実施概要
本研究は,街中の実世界検索を実現するためのネットワークセンシング基盤ソフトウェアを構築することを目的として実施した. その基盤ソフトウェアを,(1)異種センサデータ統合時間データ管理機構Tomu,(2)携帯機器を有する人からセンサ情報を収集する機構であるヒューマンプローブHPB,(3)街中人流情報生成機構EPEF,(4)ウェブおよびマイクロウェブから位置精度の高い街中情報を収集する機構WeX,(5)アプリケーションフレームワーク,の5つの要素に分割して,各々の研究開発を進めた.
- (a) Tomu(東京電機大学および東京大学) 様々な粒度で発生する時空間センサデータを,街中道路沿いの情報として階層的に管理するI-Tree,類似する時系列を高速に検索するSTAXアルゴリズム,動的にセンサを組み込む際に自動コンフィグレーションを可能とするセンサインタフェース記述言語USMLを開発し公開した.
- (b) HPB(東京電機大学) 移動する人が装着したり,保持するセンサを用いて,複数人によりセンシング範囲を広げるというコンセプトを実現する,ヒューマンプローブを開発した.
- (c) EPEF(中央大学および慶應義塾大学) コモディティステレオカメラを用いて,人数に対するスケーラビリティの高い歩行者数特定アルゴリズムおよびTomuとの連携が可能なソフトウェアを開発した. さらに,人の集団の動きを解析して高次コンテクストを生成し,集団行動を分析可能にした.
- (d) WeX(大阪大学) 位置情報特定の精度を向上させることにより,ウェブ上のブログやマイクロブログにある文章から,正確な位置情報を備えた実世界情報を抽出可能なアルゴリズムおよびそのソフトウェアを開発した.
- (e) アプリケーションフレームワーク(東京電機大学およびフィックスターズ) 街中状況検索とアンビエントナビゲーションを備えたSfeerを開発した. HPB,EPEFは単独でも機能する要素ではあるが,これらを異種センサデータ統合時間データ管理機構Tomuと通信可能となる構成とすることにより,都市センシングキットソフトウェアとして完成させることができた.
その中でも特に,センサ情報付き写真画像収集機構に注力した.
HPB,EPEF,Wex各々で生成されるセンシングデータは,単独でも利用可能である.
しかし,本研究では,これらすべてをTomuの入力として,時空間上で階層的に管理する.これらのデータ群は,アプリケーションフレームワークにおけるサーバで取り扱い可能となり,最終的に携帯電話を用いる実際のユーザに提供される.
本研究を実適用するに当たり,応用検討ワーキンググループを立ち上げた.
その中で,東京都八王子市や,東京駅周辺のビルを管理する諸企業と交渉を重ねた.
しかし,本研究の実験フィールドに達するには至らかった.
その後,実施開始2年後の2008年10月に,群馬県館林市の協力が得られることが決まり,群馬県館林市を「統合センシングシティ」として,本実世界検索のフィールドとした.
その中で,地域の局所的気象情報を取得するために,館林市市街地に,24時間稼働する無線マルチホップ通信センサネットワークを平成21年度より敷設し運用している.
具体的なアプリケーションとして,地域特有の熱中症予防情報サービスを提供したほか,アンビエントナビゲーションをスマートフォン上のアプリケーションとして展開した.
平成23年7月に,館林市民による実証実験を行い,本システムの有用性を一般市民の方に利用してもらうことで確認することができた.
本プロジェクトでは,群馬県館林市を実験フィールドとしたが,スタート当初に目指した「街中の実世界検索」に適用可能となるように,汎用性の高いシステムとして完成させた.
顕著な成果
- 都市センシングソフトウェアTomu 細かい粒度で得られる固定センサと,ヒューマンプローブシステムから取得されるデータを統合し,負荷分散にも対応してオーバーレイネットワークとして稼働可能な,実世界検索に利用できるソフトウェアを完成させた.
- ヒューマンプローブシステム 都市の住民が保有する携帯電話を利用した,センサ情報付き画像や,近距離無線により外部センサと連携し,相互の協調動作により省電力性も狙った,街中情報収集ツールを完成させた.
- ステレオカメラを用いた人混雑度計測手法の構築 各カメラの画像のうち前景領域のみにステレオの対応づけ処理を限定する差分ステレオを提案し,本手法で得られる距離画像とカラー画像とを併用して混雑環境下でも移動方向ごとに人数計数が可能な人流計測手法を構築し,有効性を検証した.
研究実施体制
OSOITEプロジェクトでは、東京電機大学グループ、東京大学グループ、中央大学グループ、大阪大学グループ、慶應義塾大学グループの5つに分かれて研究を進めた。 各グループ毎に研究項目を掲げ、それぞれDBSNオーバレイプロトコルの設計及び統合センシングデータベースの開発、実世界検索のためのDBSNデータベースアーキテクチャの構築、不審者検出情報生成に関わる物理センシングシステムの開発、Webから実世界情報を抽出するシステムの構築、そして実空間安全・安心コンテクストのリアルタイム抽出について研究を行った。
「東京電機大学」グループ
研究項目
DBSNオーバレイプロトコルの設計
- DBSNオーバレイプロトコルの構築
- DBSNプロトタイプの構築
- 実世界規模DBSNオーバレイネットワークの構築
- ヒューマンプローブによるDBSNの拡張
統合センシングデータベースの開発
- プロトタイプシステムの開発
- 実運用のためのバックエンドシステム開発
- コンテンツ自動推薦システムおよびシステム実運用
「東京大学」グループ
研究項目
実世界検索のためのDBSNデータベースアーキテクチャの構築
- 分散異種センサデータベースのための問い合わせ処理機構の設計および開発
- 問い合わせモデルと問い合わせ記述言語の開発
中央大学
研究項目
不審者検出情報生成に関わる物理センシングシステムの開発
- 運動領域型小型ステレオカメラシステムの開発
- ステレオカメラによる移動人物検出アルゴリズムの開発
- RFIDとステレオカメラの組み合わせによる不審者検出
大阪大学
研究項目
実世界検索のためのDBSNデータベースアーキテクチャの構築
- 部データベース連携機構の実装および集約アルゴリズムの開発
慶應義塾大学
研究項目
実空間安全・安心コンテクストのリアルタイム抽出
- 群行動コンテクスト抽出アルゴリズムの開発
- パーソナルコンテクストを考慮したDBSN問い合わせモデルの開発
- 高次コンテクスト整形処理技術の開発
館林市における実証実験
実験システム概要
2011年7月17日に行われた館林まつりを舞台に実証実験を行った. 実証実験は,スマートフォンを活用した街中雰囲気情報提供サービスを市民に提供することを目的とし,館林駅前を中心に43台設置された微気象センサネットワークによる温度,湿度データ,多人数が携帯電話カメラで撮った写真を共有可能な「センサデータ付与写真システム」による写真データ,差分ステレオカメラを用いて複数人物の検知を行う人流センサによる人流データ,Web 情報をセンシング情報として扱う統合センシング実験を行った.
実験概要
街中での安全安心の提供を目的としたスマートフォンアプリケーション「Sfeer」と,センサ情報付与写真システムを利用しながら,実験被験者に館林まつりに参加してもらった. 館林地球環境から館林広報で案内を出して参加者を募り,20代から50代の幅広い年代の館林市民11人に協力していただいた. 11名全員が従来の携帯電話の使用経験があったが,スマートフォンの経験者は約半数であった. 市民にはSfeer及びセンサデータ付与写真システムのアプリケーションを導入したAndroid携帯を配布し,14:00から16:00までの2時間使用してもらい,アンケート調査を行った.